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台湾縦断歩行
Day 14
数時間は寝れただろうか。
東屋のベンチに広げた寝袋をバックパックに詰め、パッと出発。
テントも広げず屋根の下に寝れると、テントを仕舞う手間ももちろんだが、ギアが夜露に濡れていないので、朝のパッキングがとても楽だ。
人里離れたと場所とはいえ、勝手に寝ていて申し訳ない気持ちもあったので、人が来る前に痕跡残さずに早くに出発しよう。
朝一番の光の中を木々を抜け山道を登っていくと、車道に出て、しばらくすると集落に到着した。
道沿いに、地元の人たち食堂があったので、朝食が食べれるかと中を覗いてみる。すると、そこは、ドラム缶の炉端に地元の年配の方々が集まった、なんとも趣のある場所だった。こんな、地元の暮らしの一環を垣間見れる場所に出会えると、とても心踊る。
自宅では朝ごはんは食べないのだが、旅に出ると、異国の食文化に興味があってついつい朝から食べてしまう。そして、朝昼晩にメニューのなかで、朝ご飯のメニューが一番好きなことが多いのだ。
朝ごはんを堪能していると、地元の人たちが次々よ「おはよう」と、日本語で挨拶をしてくれた。なんだか、田舎に行けば行くほど、日本統治時代の名残が強く残っているような。
その中に、日本語をお話しできる80代ぐらいの男性がいた。いろいろ思い出話を日本語でしてくれた。昔を懐かしむ、そのおじいちゃんの瞳が印象的だった。
そして、とても素敵に着飾った(70代ぐらい?)貴婦人もやってきて、その人は日本に嫁いで、その後、何年も東京やニューヨークに住んでいたという話を、とってもとっても流暢な日本語で話してくれた。話を聴きながら、こんな台湾の山奥の小さな村の少女が、日本に渡り、恋をして、結婚して、子供ができてニューヨークまで渡り、そして老後にまた自分の村に帰ってきた人生の不思議さに満ちた大冒険を思い描いていた。
結局、数時間その食堂にいただろうか。地元の人々に紛れてとても楽しい時間となった。
ここ数日、遠く遠くに眺めながら見えていた山の山脈に走る道。地図を見ると、まさかと思っていた見上げたあの道へと登っていき、そこから、その道を東に辿って阿里山国立公園へと目指す。
急な急な坂道をひたすらに登っていく。
そして、大きな車道にぶつかる。どうやら、目指していた道に出たようだ。そこはちょうどバス停と売店のある場所だった。その売店の名物の手作りお饅頭を買って、腹ごしらえをする。バックパックに担いでいたレタスを巻いて食べたら美味しかった。生野菜が嬉しい。
さあ、出発。いつもなら、勝手気ままにその日に行けるところまで歩いて、暗くなったら適当に寝るのだが、今日はちゃんと計画を立てて歩かないといけないのである。それは、国立公園を抜けて歩くので、入場時間が限られているのと、国立公園内ではもちろんキャンプしてはいけないから、暗くなる前にちゃんと広大な公園の規制エリアを抜けておかなければいけない。そう考えると、国立公園までのこの車道をずっと歩いていたら、どうにも間に合わなそうである。そこで「臨機応変さも大事」と、目の前に停まったバスに乗ることにした。
いざ、国立公園に着くと入場ゲートで、どうやってここまできたかの証明書としてバスチケットを見せなければいけなかったので、バスで来てよかった。そして、バスを使ったおかげで時間にゆとりができて、国立公園内をゆっくりと散策することができた。
公園を歩っていると、昨日のお祭りの広場で仲良くなったカリフォルニアの女子とその友達と遭遇。まさか、ここでまた再会できるとはお互いに思っていなかったので、とても喜ぶ。
そのまま、三人で公園を散策。大きな大きな樹々の原生林の中を歩く。すると、まるでお風呂に入って石鹸で体を洗ったかのような感覚になる。実際に、汗ばんで気になっていたベタつきや匂いも無くなって、肌がさらりとしている。同じように、川の水など、生きている水で汚れ物や体を洗うと、石鹸でも落ちない汚れが落ちるなとは、いままで何回も経験して知っていたけど、空気でこの作用を感じたのは驚きだった。原生林の森のような本当に空気のきれいなところにいったら、空気にもこんな浄化作用があるのだね。そういえば、シベリアの小さな花々が咲いた森を歩いた時も、まるで花粉の混ざった森の空気が最高の栄養のように、体を満たしてくれたのを実感したことがあったけ。
そろそろ先を目指さねばと、女子二人とお別れ。「ほんとそれだけの荷物で旅をしているのね」「こんばんはどこで寝るのかしらね?昨晩もちゃんと寝床を見つけられた?どこでも気ままに歩いて、寝れて、ほんと自由で楽しそうだわ。無事に、引き続きよい旅を」と、出発前のぼくの立ち姿を改めて眺めながら、感想とお別れの言葉をくれた。
さあ、すこし急がねば。
バックパックの肩紐を締め直し、すこし急足で歩いていく。
しばらくは、国立公園内をトレッキングしてる人たちとすれ違っていたが、携帯のアプリの詳細な山歩き用の地図にそって道を外れたところで、もう誰とも会わなくなった。この道は、昔の道で、もうほとんど人に使われていない様子だった。この道に出たら、とりあえず国立公園を抜けたので安心だ。
道は、藪漕ぎをしながらどんどんと谷を降りていく。阿里山の山の逆斜面を降って行っているようだ。このまま、向こう側の谷底まで降りていったら、テントを張れる平地を見つけられるだろうか。もしハンモックを持っていたら、こんな地形でも寝床を確保できて、それも楽しそうだ。
段々と山道沿いに、植林の伐採地が出てきた。人の仕事の痕跡に、人里が近くなってきているようだ。夕刻には、茶畑があるエリアまでやってきた。
よかった、よかった。心配していた今日の行程だったが、思っていたよりも随分とはやく歩いくことができた。
しばし、テントの設営場所を探したがなかなか良い場所が見つからず、結局、茶畑の隅っこに隠れてテントを張らせてもらった。
圧巻の景色の中を歩いた一日だった。