ぼくの旅路:その10

番外編

 

【 エゴを見つめる / ネイティブ・アメリカンの教え 】

当時のわたし:26歳

 

 

 彼に「二人で話をしたい」と言われてから、この瞬間を迎えるまで、どれだけドキドキと神経をすり減らしたしたことだろうか。いろいろな予見が、頭の中に思い巡っていく。これは、実に疲労をともなう(無意識に行われてしまっている)こころの習慣だ。こころにストックされた過去の記憶を素材に、そこから導き出される未来のストーリーを幾通りとなく創り上げていく。そして、そのこころに描かれた何通りものストーリーのひとつひとつに、様々な感情を伴いながら反応していくのだから、それは、随分と労力のいることだ。また、その状態は、意識が今という瞬間とどんどんと切り離されていく状態である。すべての存在の源泉である,今という瞬間から切り離されることによって、さまざまなレベル(肉体、精神)でのエネルギーの枯渇が生まれてくる。また逆説的に言うと、この瞬間に繫がること、この瞬間に存在すること、それは何とパワフルで至福に充ちたことであろうか。(そういった視点で、「今と繫がる」ためのワークである瞑想の有用性を説明できるかもしれません。ここで「瞑想」という言葉が出てきましたが、この「こころの習慣」と「今」に対する私見は、正直当時のわたしには持ち合わせていませんでした。それは、その後続けてきた日々の瞑想によって培われたものであり、現在だからこそ(ある程度だとは思いますが)描写できる内面的な事象です。上記の「今」と「存在の源泉」の繫がりについて、少し強引な結論にもっていっていますが、その繋がりのディテールを説明する言葉を探すと、どうにもまだ、自分の言葉ではなく借り物の言葉でしか説明できない居心地の悪さを感じます。また、自分の言葉でもそれなりに説明することはできるとは思うのですが、そのためには、いろいろな角度から自分の体験と照らし合わせながら、そのフォルムを立ち上がらせていく作業となるため、それなりのボリュームが必要になってしまいそうです。なので、ここはテーマをそらさず、この議題はまたいつかの機会に取っておきたいと思います。また(話がもう一個それてしまいますが)、過去の記憶を辿りながら、「現在だから書けること」を書く作業の意義を実感しています。それは、一度通った道を再び歩き直すことによって、再び、学び直して行く感覚です。いまだからこそ、学べる教えがそこに沢山あります。さらには、当時は、全体性としての新しい景色にばかり感動していて、見落としていたディテールを発見していく感覚もあります。)

 

* * ◯ * *

 

グラスホッパーは語りはじめた。

 

 「チーフがある夢を見た」

「このサンダンスで、4つのネーションの民がすべて揃い、踊る夢だ」

 

 ネイティブの人たちが大切にしているシンボルのひとつに、サークルが十字に切られ、そこに4つの色が配置されているものがある(インターネットで調べたら、「メディシン・ホイール」と呼ばれるもののようでした。当時のぼくの理解では、その名前は知りませんでしたが、常に彼らがそのシンボル・フラッグを掲げている様子から、それは、さまざまな教えが象徴化されたものであり、そのイメージによって、教えを忘れることなく、そして同時に誇りと強さを呼び起こすものとして、そのシンボルは確かにメディシンとして働いているようでした)。数字の「4」というのは、彼らにとってとても意味のある数であり、それは、自然界の火・土・空気・水の4エレメントや、東西南北の4ディレクション(方角)、春夏秋冬の1年の区切りなど、この宇宙のさまざまな原則を現している。スエットロッジも、必ず4ラウンドで1セットとなっていた。他の儀式でも、1度コミットメントしたら、4回(サンダンスのような儀式によっては、1年に一回なので4年を意味する)それを行って、ひとつのサークルが閉じられる、つまりはその儀式が遂行されたことになる。

 このシンボルにある4つの配色された色とは、黒・白・黄・赤である。グラスホッパーは「チーフの夢の話」の後に、こう語った。「この4色は、この地球上の4つのネーション(民/人種)を現している。黒い民、白い民、黄色い民、そして赤はこのタートルアイランド(亀の島/彼らは自分たちの住む大地のことをこのように呼んでいた)に住む我らがネイティブだ」。

 

* * ◯ * *

 

 言葉の後に、意図的に配置されたしばしの空白の時間。

彼の意識が言葉を紡ぐフィールドから、その目の中へと移って行くのを感じる。

そのまっすぐな視線は、ぼくの目をしかと見据える。

まるで、ぼくの魂の所在を確かめるかのように。

その眼差しは、ぼくの魂を、貫く。

いまこの瞬間の中心へと突き刺された感覚。

彼は、ぼくの魂が、いま・ここにあることを要求している。

いまから、その場所へと向かって話しかけていくのだぞ、と。

そのフィールドで受け取りなさい、と。

細胞がより細かく、より速く振動し、皮膚感覚が一変される。

輪郭は薄らぎ、世界がよりリアルなものとなって、ぼくの内に存在する。

呼吸が浅く、鼓動が高鳴る。

その自身の生理的変化を認識している。

目の前にいるこの人物との個と個としての距離感覚は一変している。

彼の顔の表情に初動が起こり、それは海面下を伝わる波のように口元に伝わり、そのエネルギーは言葉となって、解放される。

 

 

彼は、語った。

 

「チーフは夢を見た、4つの民がすべて揃い、踊る夢を。」

「チーフはそう語り、わたしはヴィジョンを見た。きみが我らと共にサンダンスを踊っているヴィジョンを。」

「きみが、イエローネーションの代表として踊っているヴィジョンだ。」