世界を旅をしてきて、こころがどうしようもないぐらいに、ときめいた瞬間を思い返してみる。
それは、世界のどんな場所であろうとも、その土地の、人々の暮らしに出会った瞬間だった。
大地に根を張り生きる姿に、畏敬の念と、安堵の気持ちを抱いた。
手の温もりが残る、質素な暮らしの佇まいに、こころ惹かれた。
人々の生きることへの信念が具現化された、暮らしの清貧さに、美しさを見た。
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魂が震えた
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優れた芸術には、触れたもののこころに、何かを歓喜させる力があるという。
そして、圧倒的な芸術には、創造の力を、人々のこころに呼び覚ますという。
ぼくは、人々の暮らしの中に、圧倒的な美しさを見たのだ。
そして、我が気持ちは、自身の暮らしへの創造へと、はち切れんばかりになっていた。
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クジラってどんなに大きいのだろうと、みんなの頭の中に、もくもくと想像がいっぱい膨らんでいた。
車は、坂道を転げ落ちながら、海を目指した。
崖の上の車道から、遠くに、海上に人がいっぱい集まっているのが見えたんだ。
波打ち際から何100メートルも沖に人が集まっているものだから、どうやって、人々はあんな場所にいけるのだろうと、不思議だったよ。車を止めて、みんな駆け足で、道からに浜辺に降りてみると、その理由が解った。ここは遠浅の湾で、時間帯によっては、ずーっと、ずーっと、何100メートルも、足が届いて歩いて沖まで出れるのだ。
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海を歩いて、向こうにみえる群衆に近づいていくと、手前に5、6人のグループが赤ちゃんクジラを抱えているのが見えた。わあ、本物のクジラだ!そこから50m先の群衆まで近づいてみたら、驚いたことに、先程のあかちゃんクジラのように5~10人づつぐらいのグループで、沢山の小さなクジラたちを抱えている。そうか、てっきり、大きな、大きな、クジラが1頭デーンっと横たわっているものだと想像していたのだけど、どうやら、小さなクジラたちの群れがこの湾に迷い込んできてしまったみたいだ。全部で、60頭ものクジラの群れだったと聞いた。そして、そのうちの、20頭は死んでしまったのだって・・・。みんな、片手でクジラを支えて、もう片方の手で、クジラの体が乾いてしまわないようにと、海水を掛けてあげていた。総勢数百人もの人たちが、クジラを助けるために、陸から遠く離れた海の上に集まっていたよ。
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そこから、レスキュー隊の人たちの誘導で、クジラたちを一頭、一頭、順番に一列になって、沖へ押していってあげたんだ。それは、とても不思議な、夢の中にでもいるような光景だったよ。数百人という人間が、陸から何100メートルも離れた海の中を歩いて、一列になって何10頭ものクジラたちを脇に抱えて、沖に連れて行ってあげたんだから。腕の中で、クジラたちが戸惑い弱っている様子が、手のひらを通じて伝わってきていて、みんな、「大丈夫、大丈夫、もうすぐだよ」って、クジラたちに声を掛けて励ましてあげてるの。本当に人間と自然界の動物が、しかも、陸の人間と海のクジラが手と手をとりあって、この状況を乗り越えようと、ひとつになっていたんだ。
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もう、胸まで海水がくる沖まで出たところで、クジラたちを離してあげたの。クジラたちは、そっと尾ひれを跳ね上げて、ゆっくりと、海に戻っていったよ。ぼくたちは、クジラたちを見送った。もう、その姿が海の深みに消えて行ってしまうまで、見送ったよ。
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そんな、遠い海の向こうのおとぎ話の日曜日が、この小さな浜辺の町にあったんだ・・・。
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