*金木犀*

お勝手口から外に出ると、金木犀の香りがほのかに漂い出していた。

苗木を買ってきて植えた金木犀が、二年たってたくさんのお花をつけている。

金木犀の香りを嗅ぐと、哀愁の思いに駆られ、その先に故郷東京を想う。

秋空高く、表参道を行き交う人々。

肌寒むくなってきた夕暮れの、最寄駅からの帰り道。

自転車で街を颯爽と走れば、かどかどを曲がる度に、金木犀の匂いと出くわした。

DSC03670

東京の実家の庭には、大きな金木犀の木が二本あって、それは亡き祖父が母と叔父のために植えたものだったと、つい最近になって知った。それは、小学校入学の記念植樹だったか、なんだったか忘れてしまったけど、この家にぼくが生まれる前からあったということだ。

母が庭に咲く金木犀を見ては、「あ、金木犀が咲いたわね」と言っていた母の横顔思い出すと、もしかしたら、母はそこに小さな頃の思い出を嗅ぎ寄せていたのかもしれない。

金木犀の香りが漂うのは、ことの一週間ぐらいのことだろうか。

一年に一度の、この短命な香りが庭に香るたびに、祖父と祖母は、成長し離れて暮らしていた母と叔父のことを思ったのであろうか。

四万十のこの家の金木犀の匂いもしおりとなって、この暮らしに四季の巡りの折り目を記していく。

その折り目に帰ってくる度に、故郷東京を想うことだろう。


DSC03669