丸一日と続いていた雨が止むと、北風が吹いてきた。しっとりと湿って生温く感じていた空気が、ガラリと寒さへと変わる昨日の午後だった。今年初めて届いた大陸からの北風だ。風が送られてきた先には、もうこちらが「冬」と呼ぶ寒さ、いや、こちらが想像できないほどの寒さの大地があるのだろう。四万十の地の「秋」も、「冬」の存在に圧迫されながら舞台裾に押し込まれているのを感じる。今朝は、その寒さの送り主の存在を、この夏訪れることができなかったシベリア・TUVAに思いながら、TUVAの唄を歌っていた。朝の日課を終えPCを開けると、「北海道初雪を観測」とのニュースの見出しを目にした。

先週は、今年初の出張に淡路島まで出かけた。どいちなつさん(ちなっちゃん)が主催する「心に風」の一年を通しての料理教室のゲスト講師として呼んで頂いたのだ。これは、ぼくにとって大きな喜びだった。人間としての欲は数あれど、ぼくの中には「表現したい」という欲がとても強いことを、今回の疾病騒動によって知った。それは、今までの自分の表現場所であった「出張先」の場がなくなってしまったことによって、より実感したからだ。ここで言う「表現」とは、ぼくにとっては「料理」や「音楽」の巡業であるのだが、行為だけ見れば毎日、毎日、四万十の自宅でもやっていることだ。では、今回の出張によって、同じ行為でも満たされたものの違いは何処にあるのであろうか。それは、表現を受け取ってくれる相手がいる事である。さらには、表現をフォーマルに受け取ってもらう場があることである(フォーマルと言う言葉をここで選んだ理由には、ある程度の緊張感が存在する場による、日常では到達し得ぬ可能性のことを言いたかったのだと思う)。つまりは、人との「つながり」やその場で生まれてくる「いきいき」としたもの、そして「探求」による「発見」の喜びを、ぼくは表現の先に求めていたのだと思う。つまりは、「料理」や「音楽」はその瞬間に到達するための「手段」であり、その瞬間にいつか巡り合えることを願って、日々、「手段」を日課で磨いている。

「心に風」の料理教室の素晴らしいところは、料理の枠に畑が含まれていることだ。ちなっちゃんと旦那さんのけんちゃんが日々お世話している畑を、料理教室参加者もその月ごとに一緒に観察して手を動かして感じていく(「料理教室」との文句はあくまで入り口で、参加者の皆さんはその奥にあるけんちゃんちなっちゃんの暮らしの在り方に惹かれているのだろうな、と3日間の料理教室で感じた)。料理教室二日目、朝からの講義の時間に続いて昼食をみなで済ませ、最後に、見事な秋晴れの空の下一同で畑へ向かった。畑での時間を過ごし今日一日の料理教室の時間を終えてアトリエへみんなで戻ってくると、驚いたことにそこにはマーマーマガジンの服部福太郎さん・みれいさんご夫妻がアトリエの外のベンチに座っていた。ぼくにとっては、全くのサプライズであった。

一年ぶりのお二人との再会に、あれやこれやとお話したい気持ちがムクムクと沸き起こるが、それ以上の熱をそこにいた料理教室の参加者の方々から感じていた。きっと、マーマーマガジンやみれいさんの書籍を手にしてたくさんのことを感じていた想いが、突然のお二人の登場にこみ上げてきているのだろう。ぼくは、丸一日の料理教室を通してみなさんと過ごさせてもらった時間から、それぞれの方々の人間性というもの感じていたので、「あぁ、あのかたや、あのかたは、きっと、みれいさんとお話したいだろうに、けど、遠慮や緊張していてお話できないでいるのかな」と余計なお節介の気持ちを巡らせていた。みれいさんがある特定の方からの質問に真摯に受け答えをしてしている様子を、みんなが背中越しに遠くから耳を寄せているのを感じたので「どうせなら、みんなで座って、質疑応答会にしましょうよ(そしたら、個人的にみれいさんを捕まえてお話することを躊躇していた人たちも、その場に公平に加われる場になるのではないかな。そしたら他に質問したい人も声が出しやすくなるのではないかな、との気持ちがあったので)」と提案すると、なんだか、その場の面白い流れでちなっちゃんも加わって、質疑応答会から形を膨らませて3人のトークショーのようなものが始まった。そしたら、各企業のIT班のけんちゃん(心に風)や福ちゃん(mmbooks)が「どうせなら、インスタライブしようか」と言うことで、LIVE配信も始まった(ようである。というのも、個人が即座に動画配信できるという事実を初めて目の当たりにして、びっくりする以前に、全く配信されているという実感がなかったのである。知らぬ間に、世の中の技術は随分と進んでいるのですねー)。まさに、いろいろことが、その場で即興でパッパッパとはめ込まれて(みれいさんは「DIY」と表現されていましたね)生まれた録画である。その動画をここ数日かけて改めて見てみて、さらには、みれいさんが「一人アフタートーク」なるものも動画にあげているのを見たので、ぼくも何か書いてみようと思ったのである。

【YouTube :マーマーチャンネル】

・3人のお話動画 

・みれいさん一人アフタートーク動画 

 トークショーでも、前述の「フォーマルな場」が生まれていた。「笑ってくれるみんなが周りにいてくれるおかげ」とのちなっちゃんの言葉が印象的だったが、まさにその通りで、誰か不特定多数の真摯な耳がそこにあるからこその、改まった誠実な気持ちの言葉やエネルギーの受け渡しがそこに生まれていた。みんなで育んだ場の先には、あの時あの瞬間でしか生まれ得ない「可能性」が立ち現れていた。

みれいさんのアフタートークのYouTube動画を見ていて、みれいさんが「日課」の話しに関心を持っていてくれたのだなと思い、そういえばもう何年も前にも、マーマーマガジンで「ささたくやの一日」なる特集を組んでもらったことを思い出し、今朝一番に納屋の書庫を漁ってみたら、ありました。「2010年・発刊」と記されていた。さらには、エコ男子コーナーにてマーマーマガジンに初めて登場させてもらった号もあったので手にとって開いてみたら、「朝4時に起きて、9時に寝てます」とのキャプションから記事は始まっていて、この号は2009年に発売されたものだから、もう10年以上もこの日課を続けているのだなー、と思ったのでした。きっと、記事に公表するぐらいなのだから、その前から日課に定着するぐらいのある程度の時間はかけていたのだろうと忘れた記憶を推測するのだが、10年以上も積み重ねてきたものの確かな恩恵もきっと今の自分にあるのだろうな、としみじみ思う。この朝4時起床・夜9時就寝の時間割は、Vipassana瞑想センターの時間割である。瞑想センターでの日々が心身ともにすこぶる調子良いのを実感していたので、日常生活でも「やってみよう!」というのが、始まりだ。

と言いながら、今朝は今年一番の寒さに布団から出られずに寝坊したのだが、開いたマーマーマガジンのページに中米を一緒に旅した馬のTABIが載っているのを目にして、「あ、今朝の寝坊の時間での夢で、久方ぶりにTABIと再会していたな」と、夢の情景とTABIとの再会のあたたかな気持ちがフラッシュバックされた。

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そして、ページを閉じて2つの号を並べたら、表紙は「蜜蜂」と「馬」で、「あぁ、この2つの命の存在は、ぼくの今の暮らしに、ここ数年強く望んでいたもの達だ」と、目をパチクリさせるのでした。

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淡路から四万十の自宅に戻ってきて、夏の間に全て外していた家の障子をはめ直し、ストーブも納屋から出してきた。さて、今朝の寝坊も含め、冬の日課への微調整をしていきましょうかね。