高 く
 鹿 
    鳴 い た


***


ピー ピー ピー

随分と、けたたましく鳴いている
目を瞑ったまま、息潜め
起きようか、起きまいか

ピー ピー ピー

目を開く
青白く、室内が照らされている
裏山からの光
そこに、その主はいるようだ

ピー ピー ピー

裏山の若い木々たち
去年の無念さ込み上げる



ふー

立ち上がる
忍び寄る
戸を開ける
月あかりへと、置いた足

家の脇
月の影
漕いで、漕いで

小道登り
影を抜け
そこは、照らされ、より蒼く

 ス ー

  ハ ー

ス ー

 ハ ー 

・・

探    り     あ    う

 感     じ     あ     う
  
  忍      び      あ       う


ザ ザ ッ ザ ザ ッ ザ ザ ッ

音の糸
闇の、奥へ

木立
すり抜けていく



ピィー ピィー ピィー

遠くから、再び鳴き出した、その声

ピィーッ ピィーッ ピィーッ

目にすることなく、走り去った、その姿

声の主は、もしかしたら、幼き迷い鹿なのか

必死に、鳴いている

必死に、泣いている

いななき、探している



静まる
見回す
佇む、幼木たち

丸い月
銀の川
家の影

見上げ
見下ろし
深く、息を吐く

深夜2時
声辿り、駆け回った、蒼い夜




満月に
鹿鳴いた

満月に
鹿泣いた

帰り道

谷、挟み

もう一つの木立に、響いた

もう一つの、四つ脚の音