1月21日(日)

5日目

 日が昇るその前に、鳥たちと共に目が覚めた、テントの朝。

 テントの幕の下、朝の瞑想。懸念していたテントの高さも、胡座をかいても十分な高さがあるようでよかった。

 パッキング。朝露に濡れたテントを一旦吊るして干している間に、馬頭琴を取り出して一曲。宿に泊まっていると、なかなか大きな声を出して歌える機会がないから、ここぞとばかりに思う存分歌っておこう。今日の午後には中学校での演奏もあるしね。

 さて、自転車に跨り出発だ。漕ぎ出すその前に、テントが張ってあったその場所を今一度見つめ、こころの内に一言「ありがとう」。それは、感謝なのかお礼なのか、なんともいえぬ、言葉にならぬ気持ち。テントの一夜に、こうした気持ちになるのは、どうしてだろうか。その地面に、寝転がり、守られ、安心し、目を閉じ、眠り、英気を得、そして、また新たな朝を迎えることができた。もう、言葉にならぬ肌感覚で、この地面と自分は繋がっている。そして、ただただ与えてもらったことに、自然に対して、地球に対して、芽生える謙虚な気持ち。この「ありがとうございました」には、そんな芽生えたばかりの謙虚な気持ちもその響きのなかに含まれている。自然のなかで一夜を過ごすとは、こういうことだろうか。日々の垢が取れていく。無垢な自分に戻っていく。

 さあ、バックパック背負い、山道を一気に駆け降りていく。昨日、地図で見つけた川原の温泉を目指すのだ。

 山道、坂道、上りに下りに、大きな橋渡り、眼下に流れる川。「この川原のどこかに温泉があるのかな」と、軽快にペダルを漕ぎ進めると、車道沿いにスクターが何台か停まっている場所を見つけ、「こんな何も無いところに、どうして?」と思うも、「そうか、ここが温泉がある川原へ降りていく入口か」と思い、当たりを見回すと、道路のフェンスの脇に人が行き来している形跡が残っている。そこだけ、やたら地面が踏み固められている。フェンス乗り越え、その跡を追っていくと、予想通りに茂みの向こうに、谷を一気に下までいける道と階段がついていた。

 川原まで降りていくと、ぼくと同い年ぐらいの台湾人男性数名がキャンプ道具の片付けをしている様子だった。「おはようございます、温泉はここですか?」と尋ねると、「そこだよ」と言って、その一角だけ石が赤く染まっている場所を指差して教えてくれた。どうやら、穴を掘った川原がそのまま浴槽の、これぞ、まさに天然・温泉だ。「ここで一晩キャンプしたのですか?」と尋ねると、「そうだよ、そしたら一晩中温泉に入れるからね」とのお返事。「ああ、それは、ぼくも昨晩ここでキャンプしたかったなー」と、ちょっと残念な気持ち。しかし、朝もまだ早いということで、温泉には他にまだ誰もいない、いまならまだ貸切だ。

 早速に、短パンに履き替えて、いざ入浴! と、しようとしたら、「そっちのお湯は熱すぎるから、もうちょっとこっちの方がいいよ」とお兄さんたちが教えてくれた。「おっと危ねぇ」と、教えてもらったほうの湯船に進行方向変えて歩を進め、そろそろと、足先で温度確認。少し、ぬるめでちょうど良さそう。いざ、ザブーン、と行きたいところだっけど、深さは水平に横になってギリギリ全身が水に浸かるぐらい。なんかアメンボのような気分で水に浸かりながらも、「はぁ~」との吐息。空の下、川原での朝風呂、最高!どうにも、この温泉は、『源泉掛け流し』ではなくて、地面からの『源泉湧きっ放し』のようだ。そして、川から流れてくる冷たい水と混ぜながら温度調節をしているみたい。さらに、熱くなったら飛び込む水風呂、それも、川。流れ強いから、気をつけて。

『川原の天然剥き出し温泉』

 日曜日ということで、次第に家族連れの団体が増えて、賑やかになって来た。では、そろそろぼくは、お湯から上がりましょうかね。そろそろ、自転車漕いで、台東へ戻らなければいけない時間だ。

 LINEのメッセージのやり取りで、セリーンと待ち合わせ。先に自転車を返却しておいて、近くのFamily Martで待ち合わせ。車でピックアップしてもらって、リンさんとセリーンの娘が通う中学校を目指す。ぼくが車のトランクに荷物を投げ込む様子に、「あなたの荷物、楽器もあって、これで全部なの?」とセリーンがびっくりした様子。

台湾の中学校は、こんななんだ~と、とまたとない地元の中学校訪問にキョロキョロ。普段の旅ではこんな機会なかなかないから、リンさん家族に感謝だ。

 午後の陽光に、学生たちのクラシック音楽の発表会がスタート。父兄たちの眼差しも、あたたかい。生徒たちの緊張した面持ちが初々しい。それにしても、生徒たちの演奏は素晴らしかった。上手いか下手かよくわからないけど、聞き惚れる響きだった。それにしても、台湾では、ピアノばかりか、チェロに、バイオリン、などなど、こんなクラシック音楽を公立中学校で学べる機会があるのですね。日本の学校との違いも感じる機会となった。違いといえば、学生さんたちみんな英語が上手だったな。父兄の人たちも英語がわかる人が多かった気がする。台湾の英語教育、どういった感じなのだろう?

 そして、音楽会終了。会が終わって緊張解けて、なんだか、音楽室中に和やかな雰囲気。学生たちは、一同揃って記念撮影。よかった、よかった、よい会でした。

 ん、あれ、このまま終わり、ぼくの演奏はないのかな?と、ずっこけた気持ちで、一応、セリーンに尋ねると、「ああ、そうよ、そうよ、先生に伝えてくるわ」、と思い出してもらえた様子で、マイクで「日本からのスペシャルゲストです」と紹介される・笑。

 まずは、自己紹介。ぼくの英語を、リンさんがとなりで中国語に通訳してくれる。「ぼくの台湾での記念すべき初コンサートへようこそ」と言ったら、みんな笑ってくれて、その反応に皆さんとの繋がりを作れたようで、緊張も柔らぎ、これからの演奏がしやすくなった気持ち。カリンバに馬頭琴、楽しく、気持ちよく演奏できました。それも、みなさんの温かい眼差しのおかげ。なんだか、ぼくも発表会の生徒たちと同じように、父兄、先生たちのみなさんに見守って励ましてもらいながら、無事に演奏できたような気分。ああ、緊張した。それでも、みなさんに喜んでもらえた様子。はじめて聞くホーメーの声には、演奏後、目をまんまる「すごかったです!!」といってわざわざ握手しにきてくれた、男子生徒も。嬉しいね、こうして、すこしでも一緒に感動を共有できる機会を創れるのは。どこの国にいっても、言葉関係なくに繋がれる音楽って、ほんとすごい。これだから、いつでもどこでも楽器を担いで旅したくなるのです。それに、音楽をしている時って、自分を曝け出しているから、「ぼくはこういう人です」って知ってもらえる機会なのかもしれない。そこから始まるつながりは、また違うよね。

パチ・パチ・パチとみなさんからの拍手に、大役を終えてホッとする。満たされた気持ち。

さて、解散。

 そうそう、音楽好き(特に倍音付き)のセリーンのお友達のルースも、セリーンにぼくの話を聞いたようで、わざわざ演奏を聞きに来てくれていた。帰りは、リンさんの車は、娘のチェロも載せなきゃいけないので、スペースがないということで、ルースと旦那さんがぼくを今晩の宿まで車で送ってくれることに。リンさん家族とはここでお別れだ。「また、山登りのパーミッションのことでなにかあったら、連絡しますね」と最後にリンさん。

車の中で、ルースが「わたしたちは台東から少し北に行ったところに自分たちの土地を持って暮らしているから、ぜひ遊びにきてね。一緒に楽器を鳴らしましょう」と言ってくれた。

今晩の宿は、前回と変えて、もう少し街中にある宿を取ってみた。台東の街の様子もだいぶ掴んできた感じ。ここなら、夜市にも歩いて行ける。朝は、生鮮市場も近そうだ。こうして旅先にあっても、知り合いができて、土地勘もついてくる感じ、堪らなく好きだ。

『最後にリンさん家族と、パチリ』