2/4(日)

Walk:Day 1 #2

時刻はもう、午後の3時近くである。

歩き出すのには随分と遅いスタートとなったが、ついに歩き始めている自分がいる。

雨は幸にも小降りから、止み始めている。

「何も知らないけど、本当に、歩いて台湾を旅することなんてできるのだろうか」との思いから始まっただけに、こうして歩き旅のスタート地点に立てただけでも大きな喜びとがある。

といっても、まずは、先程のバス停までの同じ道を引き返しているのも滑稽な感じなのだが。しかし、面白いことに「自分は歩くものだ」とのスイッチが入ったことで、同じ道でも感じ方が違う。トレッキングポールを片手にカツカツと歩いていると、手に持った棒は違えど、意識はだんだんと四国お遍路を歩いた時の感覚に戻っていく。この研ぎ澄まされていく感覚に、「また歩いて旅をしたい」とのこころの声が発せられたいたのだ。

この感覚は山登りの時のそれとも違う。道といえば、車道沿いのアスファルトの上を歩くのがほとんどであり、地元の人々の日常を通り過ぎていくのだが。人々の日常の意識の中に旅人としてすり抜けていく感じが、日常と旅人の意識の狭間に、自然の中にどっぷり浸るのとは違う何かにいろいろと感じることがあるのだろう。

しかし、アスファルトの上を歩くのは足が疲れる。車道の脇に土や芝生があれば、なるべくそちらを歩くようにする。こうして、歩くことにしかと意識を向けるようになると、地面のことにも意識が行く。

上を歩く。隣を車や、バイクが通り過ぎていく。サイクリングの人たちも頻繁に見る。台湾は、自転車旅する人たちがとても多いようだ。

今日は、今さっきバスで南下してきた道を、引き返すように北上しながら歩くことになった。道は、ずっと海岸線沿いで、風が強い。途中、よいビーチがあり、よい波にロングボードを乗っている人たちを見て、波乗りをしたくなる(台東で波が大きすぎで、できなかっただけに)。

夕刻になり、街を通り過ぎる。海沿いのリゾート街といった感じで、もう、正月休みにはいったのだろう、人が賑わっている。その様子に、「バスキングをしてみようか」と思いつく。実は、先日、台東の街中でバスキングをやっている日本人に会って、彼の様子にとても刺激を受けていたのだ。彼の名前はリュウスケ君といって、実は彼も高知在住で、彼のことは名前だけ知っていた。しかし、それが台東の街中で出会うとは、なんとも偶然か。彼は、ハンドパンでのバスキングをメインに旅している。彼のその様子に、20代の頃の自分も、お金を稼がなければとの切実な状況もあってのことだったが、精力的に旅先の道端で演奏をしていたことを思い出す。小銭を得られる喜びもあったが、演奏していたら話かけられて素敵な人と出会えた。ヒッチハイクしててもそのような素敵な出会いがたびたびあったことを思うと、やはり自分を無防備に公共に晒すことで、不意の出会いが生まれることを感じる。そして、道端で人前で演奏するという緊張感もあり、バスキングのおかげで随分と楽器も上達したものだった。

馬頭琴を弾けるところが、ないかとキョロキョロしながら歩く。馬頭琴を引くためには、・腰かけられる場所が必要で、・それなりに周りもうるさくなく、・人も立ち止まれそうなスペースがあること、の三つの条件が揃った場所を見つけるのはなかなかに難しい。リュウスケくんが言っていた「周りがうるさい場所で、無理に大きな音を出して演奏しようとすると、返って下手になる」という言葉がとても印象的だった。ぼくもその実感がある。なにか、それは、その時その場の演奏を楽しんでいる状態ではなく、ただバスキングでお金を稼ぐことが一番の目的になって演奏している感じであり、演奏後でとても疲れた思いになる。

結局、「ここ」という場所を見つけられずバスキングは諦める。しかし、一方で、「やってみよう」と思ったこと、をすぐに実行するよい機会だとも思っていたので、もしかしたら、バスキングも久しぶりのことで、勢いや度胸がまだ足りなかったのかもしれない。しかし、もし本当に今後バスキングするつもりなら、折り畳みの椅子が必要だ。椅子があれば、バスキングできるところの場所の可能性はグンと広がる。しかし、椅子を担いで歩くのかと重さのことを考えると、どうしようか迷うところだ。

街を歩いて抜けて出たところで、リュウスケくんから聞いていた、素敵な信号を見つける。リュウウスケくんは、この墾丁(ケンティン)エリアにしばく滞在していたようだ。信号は、青から赤信号に変わると、点字ランプで男の子と女の子が2人出てきて、男の子が女の子に花束をあげて(なのかな?)、その後、ハート♡が舞っている。「あなたのこと大事にしているよ」とのメッセージが、赤信号の「危ないからちゃんと止まってね」のメッセージを素敵に伝えているようだ。この赤信号を今一度見たく、しばらく交差点を渡らずにそのままに立ち止まっていた。青信号を待つことはあれど、赤信号を待ったのは人生で初めてのこと。

海の向こうに、見事な夕焼けが見える。そういえば、台東は東海岸だったからサンセットは見ていなかったな。

歩いているとだんだんと暗くなっていき、そろそろ今晩の寝床のことを考えだす。リュウスケ君に聞いていた、おすすめの野宿スポットは早めに通り過ぎてしまったので、どうしたものか。

もう真っ暗な頃に、大きなビーチにたどり着き、ビーチの端っこによい塩梅に囲われた場所があったので、ビーチにテントを立てるのは申し訳ないが、もう疲れてこの砂のベットで横になりたいとの思いで、テントも立てずグランドシートと寝袋だけ広げて寝ることにした。

歩き旅、一日目終了。